知財戦略

弱者がグローバル市場で勝つための競争と協調のビジネス戦略

《知財戦略と営業販売戦略の合わせ技で勝つ弱者の戦略:その2》

 

1.はじめに

 

1.1 本稿は、知財戦略と営業販売戦略の合わせ技で勝つ弱者の戦略:その1の続編です。

二十一世紀市場での戦い方は、知財戦略と営業販売戦略の合わせ技で勝つ戦略としましょうというのが[知財の扉]の提案です。合わせ技で勝つ弱者の戦略:その1

[知財の扉]の役割は、この合わせ技で勝つ戦略をうまくマネジメントできるよう支援することです。

合わせ技とは、[1+1]≦2ではなく、2を超えるパワーが創出されるように知財戦略と営業販売戦略の方向性を合わせる技です。「合わせ技で勝つ」とは、合目的に両戦略の方向性を整合させパワーアップすることによって企業目標を達成する、ということです。

例えばマル秘の企業目標が「ライバル企業Aよりも市場シェアを上位にする」であれば、[知財の扉]の役割は、マル秘を保持したままでそれを可能にする知財戦略と営業販売戦略の合わせ技の仕込みを支援することです。

ところで、知財戦略と営業販売戦略とが、合わせ技として機能するほどに方向性が一致しているということはまずありません。それぞれは独立した存在であり、かつマネジメント要素が異なるからです。

そこで[知財の扉]は、知財戦略と営業販売戦略の両者に共通して適用できる理論(方向性を合わせるための理論)を用意しました。

これが、「ランチェスター知財ソリューション経営戦略理論」です。

1.2 ランチェスター戦略論/知財戦略論/経営戦略論/を融合させた経営戦略理論

ランチェスター戦略論と知財戦略論と経営戦略論(マイケル・ポーターのファイブフォース分析など)とを融合させた経営戦略理論が、ランチェスター知財ソリューション経営戦略理論です。

この理論は、経営課題やビジネス課題に対し知財ソリューションを導くための論理として機能するとともに、知財戦略と営業販売戦略の方向性を合わせる支援ツールとして機能します。

ランチェスター知財ソリューション経営戦略理論のイメージ図

ファイブフォース/知財の眼の分析

ファイブフォース/知財の眼の分析

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ここで、「ランチェスター戦略」とは、ビジネス競争における戦い方、勝ち方を示してくれるビジネス競争理論です。

この理論は、簡潔明瞭な理論であり、「汗の匂いがする理論」と言われるほどに現場に密着した、わかりやすく、使いやすい実践型の理論なので、その概要を理解するのは比較的容易です。

他方、知財戦略は、知的財産(知財)という多様な内容をもった抽象性の強い素材を、法律知識と知財実務スキルを使って組み立てたものです。

よって知財専門家以外の者が、知財戦略を理解することは簡単ではなく、これを自らで組立てようとすると相当に大変です。

それゆえ、経営やビジネスに明るくとも、多様な内容をもった知財のそれぞれや知的財産法がわからないと、知財をビジネスにどのように仕込んだらよいのかがわかりません。

また、知財や知的財産法に明るくとも、経営やビジネスに明るくないと、知財をビジネスにどのように役立てたらよいのかがわかりません。

ここにおいて「ランチェスター戦略」は、ビジネス戦略法を解りやすく教えてくれています。よってランチェスター戦略を知ると、自社の経営課題やビジネス上の課題やその対処法が見えてきます。

ランチェスター戦略で経営課題やビジネス上の課題が見えてくれば、知財については、必要に応じ知財専門家のアドバイスを得るなどすればよいのです。

企業にはそれぞれ事情があり、それぞれ課題があるので、解決すべき課題は自らで把握します。

解決すべき課題が見えてくると、知財以外の解決策や知財での解決策が見えてくるからです。

つまり、経営課題のうち、知財で解決できる課題や知財で解決すべき課題が見えてきた段階で、「合わせ技」を仕込む準備が整うことになります。

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ということで、「合わせ技で勝つ戦略」に興味を持って頂けた方は、先ず「ランチェスター戦略」の概要を知ってください。

「ランチェスター戦略」については、ウエッブでその概要を知ることができます。書籍も沢山出版されています。

なお、抽象性の強い難解な欧米型の戦略理論では、経営課題やビジネス上の課題がぼんやりとしか見えてきませんが、簡潔明瞭なランチェスター戦略であると、自社のビジネス上のポジションやそのポジションにおける戦い方の具体がわかります。

ただし、本稿の趣旨は、ランチェスター戦略が示す戦い方そのものを実践しましょうということではありません。

先ずは、自社のビジネス上のポジションや戦い方の具体を知りましょうということです。これを知ると、これを土台として更なる戦略的なシンキングができるという極めて有益な効果を奏するからです。

ちなみに、知財も専門性と抽象性の強い素材なので、解決すべき経営課題やビジネス上の課題がぼんやりした状態であると、「合わせ技」を仕込むことはできませんし、「合わせ技」に行きつく前に息切れしてしまいます。

それゆえにこそ、簡潔明瞭で分りやすいランチェスター戦略がお勧めなのです。

勿論、ランチェスター戦略を自社戦略として使用することもお勧めです。「ランチェスター戦略」の学習や実践、「ランチェスター知財ソリューション経営戦略理論」の学習と実践に関しましては、「知財の扉」にお問い合わせください。

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2.二十一世紀の企業戦略はビジネスエコシステム戦略

2.1 ビジネスエコシステムづくりのススメ

科学技術が高度に発展した現代においては、代替技術が多く存在します。よって、医薬品などを除き、特許で市場を完全に独占することは困難です。

そこで、特許などの知的財産権の力で市場を独占しようとするのではなく、知財権(知的財産権)の独占排他性を上手く使って、市場に仲間を呼び込みます。

そして、より大きな市場として、自社がその市場で有利にビジネスすることができるようにする戦略がベターであるといえます。

つまり、21世紀の企業戦略は、自己増殖的に成長するエコシステムを作り、そのシステムを利用して競合と競い合う戦略がベターです。

2.2 知財戦略と営業販売戦略の合わせ技でビジネスエコシステムを作る

自己増殖的に成長できるシステムとは、自然界におけるエコシステムと同様なシステムです。すなわち、システムの各構成要素が相互に影響を及ぼし合いながら、バランスを保って存続し、全体として成長発展していくシステムです。

世界の勝ち組企業であるGAFAM (グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)は、情報技術を核としてエコシステム的な市場を形成しています。

そしてそのエコシステムのリーダーになり、ビジネス的大成功を収めています。

これらの企業は、その勝ち方を自らで開示するということはありませんが、参入魅力ないし旨味がないエコシステムには仲間は集まらないので、これらの企業は、誘引力を発揮する仕掛けを持っていることは確かです。

この仕掛けの主要なものは、目に見えない知財であると考えられます。これらの企業は、知財をうまく使って仲間や市場をコントロールしているのです。

つまり、ビジネスエコシステムを運営するには、知財を上手く使うマネジメント力が必要です。

ビジネスエコシステムを仕掛ける企業は、知財を上手く使って、ビジネスエコシステムの内と外を区別し、参入利益が生じるようにして仲間(他社)をシステム内に誘い込みます。

そして仲間の力をも利用して市場を拡大し、自社利益の増大を図ることになります。

この原理からして、ビジネスエコシステムを成功に導くには、知財戦略と営業販売戦略の合わせ技が重要になるといえます。

ここにおいて、前記したランチェスター知財ソリューション戦略理論は、知財戦略と営業販売戦略とを合わせて[1+1]>2を生み出す支柱理論として機能します。

2.3 中堅中小企業・零細企業こそ、ビジネスエコシステム戦略にチャレンジしましょう。

中堅中小企業・零細企業の経営者の多くは、「我社がビジネスエコシステムのプレイヤーになることは無理」と、一歩引いてしまわれがちです。

しかし、上記したGAFAM は今や巨大企業ですが、数十年前は中小零細企業でしたので、中小零細企業も、キープレイヤーになることができます。

そして、そもそも企業規模の大小は、企業成長の原因を作る要素ではなく、事業運営の結果なのです。

日本には江戸時代から「三方よし」や「共存共栄」といった経営哲学が存在しています。これらの経営哲学は、エコシステムの存在を前提として生まれたものと考えられます。

そして当時の日本の零細企業は、「三方よし」や「共存共栄」といった経営哲学に基づく営業販売戦略でビジネスを行っていたのです。

つまり、日本には100年以上前から、ビジネスエコシステム戦略が存在していたのです。それゆえ、その文化とDNAを引き継いでいる日本の企業は、当然にエコシステム戦略を実践できます。

3.進化させたビジネスエコシステム/共存共栄ビジネスエコシステム

3.1 「三方よし」や「共存共栄」をエコシステムに取り入れる。

しかしながら、中堅中小企業・零細企業の経営者の多くは、肌感覚で、「三方よし」や「共存共栄」は綺麗ごとであり、綺麗ごとではビジネスは戦えないと思っておられます。

このことは正しいと思います。「三方よし」や「共存共栄」は、日本の風土からするウエットな優しさを持っています。それゆえ、戦略としての鋭さが足りないでしょう。

これに対して、欧米型のビジネス戦略はドライで鋭い切れ味を持っています。

そうであるならば、「三方よし」や「共存共栄」の優しさを、欧米型のビジネス戦略に融合させ、これに知的財産権を組み込み込むことで、ビジネス戦略としての完成度を高めればよいのではないでしょうか。

この合わせ技の目的は、鋭さと優しさを同居させることができる底力を持った戦略法の実現であり、日本の伝統的経営思想と、欧米の経営戦略思想と、研ぎ澄まされた知的財産戦略とを融合することにより、和洋融合型のより進化したビジネス戦略法を構築することです。

この和洋融合型のビジネス戦略法を、「共存共栄ビジネスエコシステム戦略法」と称することとします。

日本の中堅中小企業・零細企業こそが、この和洋融合型のビジネス戦略法を積極的に取り入れることが望まれます。

3.2 共存共栄ビジネスエコシステム戦略/自社の存在価値をつくる。

ビジネスエコシステムの役割は、自社が他社とともに生きられ、その利用者とエコシステムメンバーが共にリッチに生きられるようにすることです。

このためには、まず自社がエコシステムを利用してよりリッチに生きていけるようにしなければなりません。自社が仲間(他社)にとって価値ある存在でなければなりません。

自社に仲間が認める価値がないと、エコシステム内での居場所が確保できないことになるからです。

自社の価値を示すことができるものとしては、資本力や人材力や技術力などを生み出す経営資源がありますが、弱者である中堅中小企業・零細企業には、特徴ある知財が必須となります。

この知財力は、できれば権利化された知財権力であることが望まれます。

有用な知財であっても、権利化されていない場合は、弱者がその知財を自分のものとして守り抜くことが困難だからです。

つまり、仲間や顧客が認めてくれる確かな価値を持っていない場合は、ビジネスエコシステムは絵にかいた餅になってしまいますが、特徴ある知財、有用な知財を持っていると、仲間のいるビジネスエコシステムは、強い味方として機能します。

とすると、特徴ある知財、有用な知財を持っていないために、弱者に留まっている中小企業・零細企業はどうすればよいのか、という問題が生まれます。

しかしながら、特色ある日本列島の風土の中で生きながらえている中小企業・零細企業には、少なくとも、汗の結晶としての技術やノウハウ、誰もが気付いていない有用な暗黙知が存在しています。

これらは知財です。この知財を抄い出し、光を当てて育てる努力をすれば、必ず知財権になります。この努力は、費用対効果の高い努力です。知財権にすることにより、より大きなライバルとも互角に戦うことができるようになるからです。

4.共存共栄ビジネスエコシステム戦略の要件

4.1 共存共栄ビジネスエコシステムの本旨は他を排除してしまわないこと

知財権を核とするエコシステムでないと、余裕の持てる底力を形成できません。知財権は、主に仲間を呼び込み、求心力を維持するツールとして使用します。

知財権を「強み」とするエコシステムであれば、弱者同士の集合群であっても、競合と互角に戦うことができるので、いい意味での余裕が生まれます。この余裕を共存共栄を実現する力にします。

4.2 ビジネスエコシステム内での自社の立ち位置

自社の知財を評価する場合は、その絶対的強みと、他者との関係における相対的強みを評価します。しかる後に、その評価に基づいてビジネスエコシステム内での自社の立ち位置、役割を考えます。

そして、自社主導で共存共栄エコシステムを作った方がよいのか、それとも自社に合ったエコシステムを探し、そこに入れてもらった方がよいのか、を判断します。

ニッチなエコシステムでも十分に機能します。よって自社がよりリッチに生きられるニッチなビジネスエコシステムを自らでつくる選択もグッドでしょう。

5.ビジネスエコシステムには、競争と協調が必須

5.1 切磋琢磨する「競争」と、補完し合う「協調」とをバランスさせる。

共存共栄ビジネスエコシステム戦略は、敵のいない楽園をつくる戦略ではありません。互いが相手にとって必要不可欠な存在であることを条件とする成長発展の戦略です。

切磋琢磨する競争がないと、時間と共にシステムパワーが衰えてしまいます。他方、補完し合う協調がシステム化されていないと、[1+1]<2になってしまいます。

それゆえ、共存共栄ビジネスエコシステムは、切磋琢磨する「競争」と、補完し合う「協調」とがうまくバランスするシステムでなければなりません。

5.2 競争と協調を媒介するのも知財です

ビジネスエコシステムは、切磋琢磨する「競争」と、補完し合う「協調」とをもった切磋琢磨するシステムなので、ビジネスエコシステムの構成メンバーは、競争するのに値する価値と、協調によって新たな価値を生み出すことのできるパワーを持っていなければなりません。

言い換えると、烏合の衆ではビジネスエコシステムは成立しません。ビジネスエコシステムの構成メンバーには、他のメンバーにとって有益な存在価値が必要になります。

ここにおいて、最も端的に存在価値を示すことができるものは、知財権です。

権利化されている知財権は、その内容が明確にされ、オーソライズされているので、ビジネスエコシステムの内外における使い勝手性が格段に優れています。

ということから、共存共栄ビジネスエコシステムを構築する場合や、共存共栄ビジネスエコシステムに参加する場合は、知財権が重要な役割を担うことになります。

それゆえ、自社の存在価値を客観的に示すことができる知財権を準備することが、21世紀型の企業戦略の必要要件となります。

6.結び

二十一世紀の企業戦略の核心は、ビジネスエコシステムづくりです。中堅中小企業・零細企業もビジネスエコシステムに取り組む必要があります。

弱者である中堅中小企業・零細企業こそは、共存共栄思想を取り込んだ和洋折衷型のビジネスエコシステム戦略に取り組んでください。

共存共栄思想を取り込んだ和洋折衷型のビジネスエコシステム戦略である共存共栄ビジネスエコシステム戦略は、二十一世紀型の弱者の価値創造戦略であり、勝ち戦略です。

このエコシステムの核となるべきものは、知的財産です。

自社の存在価値を示すことのできる知財をできるだけ多く創出し、権利化し、それらを核として、自らでビジネスエコシステムをつくり、又はエコシステムに参画し、日本およびアジアの企業を取り込んで、グローバル市場に打って出てください。

[知財の扉]は、知的財産づくりと、その権利化と、共存共栄ビジネスエコシステム戦略づくりをサポートさせていただきます。

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