知財戦略

自己の氏名を含む商標で商品のオリジナル性、独創性を訴える商品戦略Ⅰ

《氏名を含む商標の保護/商標登録の状況;その1》

〈1-1〉氏名商標の保護ニーズ

一般企業においては氏名を含む商標の保護ニーズは、さほど高くないでしょうが、属人的な独創性が商品やサービスの価値に大きく影響を与える業界においては、自己の氏名を含む商標を登録商標したいという要望が強くあります。

特にデザイン業界などでは、古くからデザイナーの氏名自体を表記した商標や氏名を含む商標(氏名商標)が使われています。例えば「ハナエモリ」、「イッセイミヤケ」、外国では「ルイヴィトン」、「イブサンローラン」などがあげられます。これらの氏名商標は、個性的な独自のデザイン性をもった商品であることを強く表象するのに役立っています。

 

  登録第5259402号

 

氏名を含む商標

登録第6435567

 

 〈1-2〉氏名商標の登録と同姓同名の他人の存在

氏名を含む商標(氏名商標)の登録可否を判断する際の商標法上の根拠条文は、商標法第4条1項8号です。この条文には、『他人の肖像または他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く)』は、商標登録を受けることができない旨を規定しています。

よって、自己の氏名であっても、同姓同名の他人が存在する場合は、その他人の承諾を得なければ、商標登録を受けることはできません。

この条文は今まで(2023年4月時点まで)改正されたことがないのですが、時代とともに審査上の運用が変動しており、同じような氏名的要素をもった商標であるのに、登録されたり、登録されなかったりしています。

例えば昭和の時代は、著名な氏名について本人自身か本人の同意を得た者が出願した場合、同姓同名の他人がいる場合であっても商標登録されています。この傾向は平成に入ってからも続いていました。

ところが、平成15年(2003年)の最高裁判決(平成15年(行ヒ)第265号;LEONARD KAMHOUT事件)の判決から少しずつ変化しています。

平成15年(行ヒ)第265号;LEONARD KAMHOUT事件において最高裁判所は、商標法第4条1項8号について『その括弧書以外の部分(以下,便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって,8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は,他人の人格的利益を害することがないよう,自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。』と判示しました。

この判示にしたがうと、氏名商標を登録するには、同姓同名の他人のすべてから承諾を得なければならないということになります。しかしながら、1億人以上もいる国で、同姓同名の他人のすべてから承諾を得ることは現実的に困難です。

じゃあー、自己の氏名を含む商標を商標登録したい出願人はどうすればよいのでしょうか。(その2に続く)

 

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