知財戦略

自己の氏名を含む商標で商品のオリジナル性、独創性を訴える商品戦略Ⅳ

《氏名を含む商標保護の状況;その4》

〈4-1〉「氏名商標」を登録し易くする法改正
 氏名商標の登録の可否を左右する同姓同名の他人の取り扱いが、特許庁、裁判所との間で変動しています。これは出願人の保護と、人格権の保護とのバランスに苦慮しているからでしょう。しかし、出願人からすると“何とか統一してよ”と言いたくなります。

 人格権の保護も重要ですが、独創性、属人的な商品・サービスを表象する氏名商標の役割も重要です。ファッション界やデザイン業界などにおける氏名商標の保護の要請にも配慮する必要があります。

このような中、原則登録が認められなかった個人の氏名を、一定の条件の下で登録できるようにする法改正が準備されつつあります。すなわち、商標法第4条第1項第8号の改正案が、令和5年3月10日の閣議で決定されたので、近いうちに法律改正されます。改正案を下記します。

【商標法第4条第1項第8号の改正案】
他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用する商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの

 この法改正が実現した場合、他人の氏名を含むもので登録できない商標は、
①商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名であって当該他人の承諾を得ていないもの、

②他人の氏名を含む商標であって、「政令で定める要件に該当しないもの」、のいずれかとなります。
今のところ政令で定める要件は不明ですが、著名人などの氏名についての他人による先取り的な権利取得は禁止されるでしょう。その一方、商標を使用する分野において周知な他人の氏名を含んでいない場合は、氏名を含んでいても登録が認められるようになると思われます。

〈4-2〉法改正で新たに発生する問題について
  自己の氏名を含んだ商標が他人により出願され登録された場合、出願時及び査定時において自己の氏名がその商標分野において周知でない場合には、商標登録の無効を求めることができなくなると考えられます。例えば、多少の知名度は獲得しているが周知性を獲得するまでには至っていない場合は、承諾がないことを理由とする商標の無効を訴えることはできなくなります。
 ただし、このような問題が生じることについては、改正法案の審議において十分に考慮がなされているでしょうから、他の条文で拒絶できるように審査基準を改訂する等し、それを「政令で定める要件」に含めるなどの対応がとられるように思います。


 なお、自己の氏名を含んだ商標が他人に登録された場合であっても、自己の氏名を普通に用いられる方法で表示して使用する場合には、自己の氏名を使用することができます(商標法第26条)。

よって、自己の氏名を商標登録したいと思わない人には、特段の不利益はないです。

〈4-3〉会社経営に氏名商標を生かす
 自己の氏名は代替のできない大切なものなので、商品等に氏名商標が付されていると、その氏名の人が責任を持ってその標品等を製造販売しているだろうと買い手は受け取ります。よって氏名商標には買い手に信頼を訴える強いメッセージ性があります。

しかし、自分の氏名であっても、同じ氏名の他人に先に商標登録されると、もはや商標登録することはできませんし、自分の氏名であっても商標的な使用ができなくなってしまいます。したがって、自分の氏名を商標として使用したいと思っている人は、できるだけ早く商標登録出願することが望まれます。

 なお、改正法の施行日前であっても自己の氏名を出願することができます。出願しておけば、他人による権利化を防ぐことができ、改正法の施行後に審査を受けられるよう導けば、 改正法が適用になり、自己の氏名の登録が可能になります。

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