《日本企業がグローバル市場で再び輝くためのとっておきの秘策を明かします》
世界の勝ち組であった日本企業の多くは、今グローバル市場で勝てなくなっています。なぜ勝てなくなったのでしょうか?
本稿は、日本企業が再びグローバル市場で輝く企業となるためのとっておきの方法論を記載しています。
1 グローバル市場における日本企業の現状
1.1 日本企業は苦戦しています。なぜでしょうか。
日本は長い間、「より良いものをより安く」というモノづくり戦略で世界の先頭を走り、市場で勝ってきました。
しかし今、市場競争で苦戦しています。なぜでしょうか?
日本は世界に冠たる特許大国でした。液晶パネル、DVDプレイヤー、カーナビ、DRAMメモリー、太陽光発電セルなどの素晴らしい発明をいっぱい世に出しました。
しかし、今はこれらの分野で苦戦しています。なぜでしょうか?
日本の国内総生産の伸びは鈍化しており、米国や中国との差が一層拡大しています。少子高齢化が原因の一つではありますが、日本人の知恵はどこかにいってしまったのでしょうか?
これらの「なぜ」「なぜ」を紐解く一つの回答は、“イノベーションのジレンマ”(クレイトン・クリステンセン)でしょう。
この“ジレンマ”は乗り越えられないのでしょうか?
1.2 従前の日本企業の強みは、今や強みでなくなっています。
戦後、日本企業が得意としてきたのは、「より良いものをより安く」という戦略です。
より「良いものをより安く」は、今も昔もモノづくりの基本ですが、今ではカイゼン型のビジネス思考や、カイゼン型のモノづくり戦略だけでは、市場で勝てなくなっています。
また、供給者目線での「良いもの」づくりは、技術の進展によって技術者が気付かないままに需要者の要求を超えた過剰品質の「良いもの」を作ってしまいます。
当然に需要者のウォンツに合わないものは、たとえ品質が良くても売れません。
また、今日の大量消費時代は、色んなものが豊富に出回っています。よって、「良いもの」と「そこそこ良いもの」との差が見えにくくなっているとともに、良いものに対するプライオリティが低下しています。
モノに対するこのような変化は、25年くらい前から徐々に進行しています。そして今日ではアジア諸国の技術力・情報力が格段に向上しているので、日本企業が良いものをつくると、それに類似する格段に安いものが出現してきます。
有望な製品・商品ほど直ぐに真似されてしまいます。
今日では、世界中のあらゆるモノが簡単に入手できます。
オリジナル製品よりも、価格の安い類似品の方が大量販売に向くので、結果的に後追いの類似品が勝ち残るということになりかねません。
このようなことから、苦労してオリジナル製品を開発した企業が、類似品との戦いに敗れて、市場から撤退という事例が多く出現しています。
例えば液晶パネル、DVDプレイヤー、カーナビ、DRAMメモリー、太陽光発電セルなどは、当初は開発企業である日本企業が先頭を走っていたのですが、このようなパターンどおりの流れで、アジアの企業に追い付かれ、追い越され、負けてしまいました。
1.3 社会的経済的な基盤が変化しつつあります。
物に対する価値感の変化と 同時並行的に進んでいるのが、IT(Information Technology)革命です。
IT革命は、社会経済の在り方を変えつつありますが、これに新型コロナパンデミックが加わって、社会的経済的な基盤を一挙に変えつつあります。
このことは、先進IT企業であるGAFAM (グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト) という米国の5社の株式時価総額合計が、コロナ禍を機に、日本の東証一部上場企業2170社の合計よりも大きくなったという事実に象徴的に表れています。
今や日本の物づくり企業の優等生であるトヨタ自動車の時価総額は、世界の40番目であるということです。(日経2020.5.16朝刊)。
このような社会的経済的な基盤変化とともに、パラダイムシフト的なビジネス環境の変化がおきており、この変化の影響は、中堅中小企業・零細企業にも及んできます。
それゆえ、中堅中小企業・零細企業も、パラダイムシフト的なビジネス環境の変化に対応しなければなりません。
2 パラダイムシフト的なビジネス環境の変化への対応策は?
2.1 自社製品は知的財産権という見えない鎧でしかり守るべきですが・・。
特許等の知的財産権(知財権)は、製品・商品の見えない鎧として機能します。
自社製品を知財権で守ることは極めて大切なことです。
しかし、知財権での守りを強化しようとすればするほど時間と費用がかかります。
また、どんなに守りを強化しても、完璧を期すことは難しいため、僅かな隙間から攻め入られてしまったということがあります。
更に、頑丈な鎧で自社製品・商品を十分にガードできたが、ビジネスで負けてしまったために、結局、製品・商品を守り切れなかったいうこともあります。
このようなことから、自社製品・商品を見えない鎧で守り切るという知財戦略の考え方は、モノが溢れ、モノの新陳代謝が活発な今日においてはうまく機能しなくなっているといえます。
言うまでもなく、昔も今も、製品・商品を守る見えない鎧としての知財権の作用は大切です。
しかし知財権の役割を、「見えない鎧」にとどめるのではなく、経営ツールとして、もっともっと活用すべきです。
結論的に言えば、知財戦略の目標を、「製品・商品を守る」から、製品・商品を守りつつ、「ビジネスを守る」に進化発展させるべきです。
このように言い切れるのは、知財には、そのようにできるポテンシャルが秘められているからです。
しかしながら、言うのは簡単ですが、このポテンシャルを引き出すことは簡単ではありません。
2.2 各々の専門ムラが知財戦略と営業販売戦略を独自にマネジメント
「知的財産」という言葉は、2004年4月1日施行の知的財産基本法で定義された用語です。
知的財産基本法で「知的財産」という用語がオーソライズされる前の日本の技術開発は、ビジネス部門との摺り合わせを殆ど行うことのない、技術優先の研究開発でした。
言うならば、技術開発や特許開発は、技術専門ムラや特許専門ムラの住人が考えるものであり、営業販売は、ビジネスを知っている営業販売ムラの住人が考えるべきものである、という考え方です。
多くの企業は無意識にこの考えに支配され、運営されてきました。
それゆえ、知財戦略の目的を、「製品・商品を守る」から、「ビジネスを守る」に進化発展させようとしても、これが難しいのです。
また、専門ムラに任せ切ったやり方では、技術保護・製品保護を目的とする知財戦略と、売上げアップを目的とする営業販売戦略との方向性にズレが生じてしまいます。
戦略の方向性にズレが生じると、各々の専門部門の総和としての企業戦略力は、[1+1]≦2となります。
つまり、[1+1]は良くて「2」となり、専門分野の知恵を組み合わせたにもかかわらず、相乗効果( [1+1]>2 )を生み出すことができないのです。
このような状況を打ち破るには、大企業においては、技術専門ムラ・特許専門ムラと、営業ムラ・販売ムラの垣根を低くし、「ムラ」同士の交流を活発にしなければなりません。
また、専門人材が十分でない中堅中小企業・零細企業においては、社長自身が全体を掌握し、外部専門家の力を利用するなどして、全社的利益を最大化させるよう努力する必要があります。
「ムラ」同士の交流を活発する施策や、社長自身が全体を掌握する施策は良い対応策です。それなりの効果を奏します。
しかし、これらの施策だけでは、[1+1]が「2」に近づくだけで、「2」を超えることはないでしょう。
2.3 知財戦略と営業販売戦略の戦略目標を合わせることの困難性
「2」を超えるパワーを生み出すようにするためには、知財力を生み出す知財戦略と、営業販売力を生み出す営業販売戦略との双方の戦略目標を、両者で「2」を超えるパワーを創出させるという目標の下で、両戦略を合目的的に作り込む必要があります。
ここにおいて、知財戦略と営業販売戦略の戦略目標を一致させる困難性が浮かび上がってきます。
すなわち、知財戦略、特に特許戦略と営業販売戦略とは、戦略目標が違い、戦略を組立たてる要素が違います。
特許戦略は、強い特許を獲得する、強い特許網を構築するといった観点で、技術や法律的な要素を論理的に組み立てます。
他方、営業販売戦略は、売上げを増やす、利益を増やすといった観点で、消費者・需要者の行動・嗜好などの論理では律することのできない要素等を組み立てます。
また、ビジネスは、研究開発に始まり、生産、営業、販売の流れで成立しているが、知財戦略は、上流領域に位置しており、製品・商品の研究開発と生産技術が関わる主に理系分野に属しています。
これに対し、営業販売部門は、下流に位置しており、主に文系分野に属しています。
これらの違いは、知財部門と営業販売部門との間に、精神的・物理的な距離感を作ります。
この距離感は、両部門の交わりを遠ざけ、両者に跨るマネジメントを困難にします。
2.4 知財戦略と営業販売戦略の総和を最大化させる方法
両者の力の総和を最大化させるためには、知財部門と営業販売部門の間の精神的・物理的な距離を乗り越えて、両者間の距離感を縮める必要があります。
このための方策としては、まず次のことが考えられます。
知財部門は、その目標を「技術を守る」から、「ビジネスを守る」・「ビジネスに資する」に切り替えます。
この目標の下、営業販売部門に出向いて意見聴取し、それを知財開発に落とし込む努力をします。ビジネスに資するための方法論を少しずつ確立します。
他方、営業販売部門は、理屈優先の堅苦しい知財を嫌うことなく、「売上げを増やす」・「収益力を高める」という目標の下で、自社の知財権を自社の営業販売戦略にうまく取り込む努力をします。
知財権を営業販売に取り込む方法論を確立します。
これらの施策は、[1+1]を限りなく「2」に近づける視点ではなく、[1+1]から「2」を超えるパワーを生み出すという視点で行います。
更に、次のことが考えられます。
「2」を超えるようにするには、ヒトだけでなく、両部門の全ての戦略的要素を同じ方向に向ける必要があり、このためには、知財部門と営業販売部門を共通の視点で統合的にマネジメントする必要があります。
このマネジメントは、それぞれの企業の特質に合わせた個別具体的なものでなければなりません。よって各企業は、自社に適合するマネジメント法を開発しなければなりません。
この場合、知財部門と営業販売部門を共通の視点で捉えることのできる大枠の戦略理論(汎用的な戦略理論)を探し出し、それを自社独自の戦略ツールに加工して使うか、または自社独自で共通して使える戦略理論を作り出すということになります。
異なった部門間の風通しを良くすることは非常に大切ですが、これだけでは、「2」を超えるパワーを生み出すことは困難です。
よって、知財戦略と営業販売戦略の総和を最大化させるために、両戦略をつなぐことのできる戦略理論・戦略ツールを考える必要があるのです。
3 知財部門と営業販売部門の双方に適用できる汎用理論はあるのでしょうか
3.1 知財戦略と営業販売戦略とに跨って適用できる汎用理論は存在しません。
特許戦略等の知財戦略と営業販売戦略の組み合わせで、相乗効果を生み出すためには、知財と営業販売との違いを乗り越え、両者をうまくマネジメントする必要がありますが、このためには、両者に適用可能な理論が必要となります。
しかしながら、そのような理論は存在しません。
この理由は種々あるでしょうが、もっともな理由としては、次のことがあげられます。
知財戦略や営業販売戦略は、企業の栄枯盛衰を左右する最重要事項であり、マル秘事項です。
よってこれらの情報は、決して外部に出てきません。
それゆえ経営学者などの外部の研究者には、知財戦略と営業販売戦略にまたがった研究をすることができない、ということがあげられます。
これが現実であろうと思いますが、[知財の扉]は最近、日立製作所の「ルマーダ (Lumada)」なる概念を知りました。
NikKEI Business DAILY によると、Lumada(ルマーダ)とは、「2016年に提供を始めたIoTのプラットフォーム(基盤)で、illuminate(照らす)とdata(データ)という2つの英単語を組み合わせた造語。顧客の持つデータに光を当て輝かせて、新たな知見を引き出し、経営課題の解決や事業の成長に貢献するという思いを込めた。現在は顧客と経営課題を解決するシステムなども含む。日立社内では顧客のデータを活用し、同社のノウハウを生かしているといった基準を設け、ルマーダと呼ぶかを審査する。システムを他社にも提供しやすいように体系化し、顧客ごとのカスタマイズを最小限に抑える。これにより利益率が高まると同時に、素早くシステムを納入できる利点がある。」ということです。(日立の切り札「ルマーダ」って? IoT基盤から進化中: 日本経済新聞 (nikkei.com))
この説明から、「ルマーダ」は、巨大なハイテク企業である日立製作所が、様々な事業領域を結び付けるために考え出した概念であり、日立製作所独自の全社戦略的な経営戦略として機能するもののようです。
敢えて言えば、ルマーダ(Lumada)は、異なった部門間をつなぐことのできる統合的な戦略理論といえそうです。よって、この概念を使って自社の戦略ツールを作ることが可能かもしれません。
しかし中小企業・零細企業がそれを自らで作ることは簡単ではなさそうです。
(ただし、[知財の扉]は、「ルマーダ」が知財戦略と営業販売戦略を跨ぐ理論として使えるものかどうかを判断する情報をまったくもっていません。この点を悪しからずご了承願います。)
3.2 知財の扉が辿り着いたのは合わせ技で戦う戦略です。
[知財の扉]はこのような超巨大企業の全社戦略とは全く無縁に、🔸知的財産戦略と営業戦略の双方を俯瞰できる論理、🔸中堅中小企業や零細企業が使える論理、🔸全社戦略を構築するときにも使える論理、を思考してきました。
そして上記3つの視点で考え出したのが、「知財戦略と営業販売戦略の合わせ技理論」、「知財戦略と営業販売戦略の合わせ技で勝つ戦略」です。
この理論の本旨は、企業目的・目標を実現するよう、知財戦略と営業販売戦のズレを調整し、[1+1]>2を実現する方法論です。
この方法論を実践するために使用する支柱となるべき理論が、これまた[知財の扉]が創出したランチェスター知財ソリューション経営戦略理論です。
この理論を用いて、例えば企業目的・目標を達成するために必要な経営戦略上の要素を洗い出します。
知財部門と営業販売部門との壁を乗り越えられる共通の価値基準と評価基準を定めます。
この基準に従って各要素を重み付けし、各要素を各部門の戦略に落とし込みます。
このようにして知財戦略と営業販売戦略(及び全社戦略)の方向性を揃えて、知財戦略と営業販売戦略の合わせ技で勝つ戦略を実行することになります。
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「ランチェスター知財ソリューション経営戦略理論」は、具体的な経営課題に対し、具体的なソリューションを導き出すことを目的として開発した実践的な理論です。
この理論は、営業販売戦略として利用され、多くの実績を上げている「ランチェスター戦略」理論と、従前から経験的に積み上げられてきた「知財戦略理論」とを基に、[知財の扉]が独自に作り出した理論です。
ところで、営業販売は、営業と販売に分けることができ、「営業」を顧客や需要を作り出す部門とし、「販売」を製品・商品を顧客に届けお金と交換する部門であるとした場合、知財とのかかわりがより深いのは営業です。
しかし、顧客に直接接触する販売部門のフィードバック情報は、製品開発、知財開発においても重要ですので、本稿では、営業と販売を区別することなく、「営業販売」として捉えています。
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